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「それあ、いかん。こんなに多くはいらんよ」
「はあ、どうも」
だが、変化は盛子にだけあるのではなかつた。房一も、捉みどころのないやうに思はれる一年あまりにもかゝはらず、あの計画だの野心だの猪突ちよとつだのいふものの他に、何か一つの自然さが、生活のつくり上げる自然な段取りといふやうなものがいつの間にか身体にくつついて来たやうであつた。
「はあ、なるほど」
「あら、お帰んなさい。随分早かつたのね。もう済んだんですか」
と、一向にそんなことを知らない房一が云つた。
熱心になっていた「な」の字さんは多少失望したらしい顔をした。
「ごめん下さい」
「いや」
が、ひどく不機嫌になつた時にはこの円味が消えてしまひ、あのどぎつい部分々々がばらばらに突出し一層強くなるやうに感じられる瞬間がある。それは理由なく盛子を恐怖させるものであつた。
「徳さん、君は草履ばきぢやないか」
「うん?」
「まあ、葉書でざつと町内に出しときましたがね」