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彼は近来今日ほど熱心に注意深く患者を診たことはなかつた。今までは単に顔見知りだといふにすぎなかつた高間道平といふ一介の老人、しなびた、日焼けのした肉体を、たゞそれだけでない、ふしぎと一脈のつながりあるものとして見た。それは又、この紅黒い、むくむくした房一にもつながつているものだつた。そのどこから来たとも知れない、ぐつと身体を近づけたやうな親しさを、今、練吉は隣りを歩いている房一に感じていた。
河原の端にある高い築堤の上で、白い割烹着かつぽうぎを着た女が、口に手をあてて何か叫んでいた。
「いゝかね。あんたの身体はどこも悪くない」
根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。
と、云つた。
「なに?競馬のこと?」
と、房一は机の上に虫の卵の形を書いてみせた。
と云ふ疳高かんだかい大きな声があたりに響きわたつて房一を面喰せた。
「いや、あの晩の、ほんの三二日前です」
練吉は時々、「うむ、うむ」と呟き、房一の方をふりかへつては「ね?」と、同意を求めるやうに云つていた。
「わしは反対だ!」
「相沢の先代が生きている間は知吉さんも手が出なかつたのさ。目の上の瘤がなくなつたから、いよいよ本性を出したといふところだらう」
小谷は不安げに呟いた。